企業理念と経営理念の違いについて

企業理念とは、会社が一番大事にしている価値観や考え方、または「自社はこうあるべき」と考える姿を意味します。一方で経営理念とは、会社の経営で重視したい価値観・考え方です。

この説明だけだと、企業理念と経営理念はほぼ同一の概念に思えるかもしれません。実際、企業理念と経営理念を同一のものとして考えている企業や経営者は少なくありません。同一のものとして考えること自体間違っていないものの、厳密には企業理念と経営理念は異なる概念です。

そこで今回は、企業理念と経営理念のあいだにある5つの違いをご説明します。企業理念と経営理念の違いを知りたい経営者の方は必見です。

違い①:理念が対象とする範囲

企業理念と経営理念では、何を(誰を)対象としているかに大きな違いが有ります。

企業理念は、会社全体が大事にしたい価値観や考え方です。経営者のみならず働いている従業員にとっても、意思決定や普段の業務で判断基準となる理念です。また、企業は経営者の個人的な利益のみならず、社会に対して価値を提供するために存在する組織でもあります。ですので企業理念には、利益を得るための事業活動のみならず、「どんな形で社会に価値を提供するか」や「どんな形でソーシャルな問題を解決すべきか」といった視点も含まれます。

一方で経営理念は、会社を経営するにあたって大事にしたい価値観や考え方を明文化したものです。「会社を経営する」のは経営者を中心とした経営陣ですので、主に経営陣が守っていく理念です。したがって、「従業員に理解してほしい」というよりも「自分たちがどんな価値観を持っておくべきか」を基準に考えます。また経営理念を策定する際には、「自社が市場で存続・成長する上ではどんな価値観が重要か?」との前提で考えるのが一般的です。よって企業理念と比べると、社会よりも自社中心の視点となります。

違い②:理念の作成者

企業理念と経営理念が持つ二つ目の違いは、誰が理念を創るかに有ります。

企業理念は、主に会社設立の時点で創業者と少数の従業員が話し合って創るのが一般的です。そもそも企業理念では、「組織を構成する一人ひとりがどんな考え方・価値観を大事にするか」を明文化します。ですので、創業者単独で創ると、従業員が納得・賛同できない企業理念となる恐れが有ります。そうした事態を防ぐために、創業者と設立時のメンバーが共同で企業理念を創るのが良いとされています。

一方で経営理念は、大抵の場合は経営者が単独で作ります。何故なら、経営理念は会社全体よりは経営者(および役員)が重視する価値観・考え方だからです。経営するにあたって経営者自身が納得できる理念であれば問題無いため、個人で思いのままに作ります。ただし必ずしも経営者が単独で創る決まりは無いため、企業理念と同様に従業員や周囲の役員を交えて創るのも問題有りません。

違い③:変更のタイミング・頻度

変更するタイミングおよび頻度も、企業理念と経営理念では大きく違います。

企業理念には、組織全体で大事にすべき価値観という側面だけでなく、「存続しているあいだ、どんな姿で有りたいか」の要素も含まれています。言い換えると、企業が存続する理由や目的などを明文化したものであり、企業のアイデンティティに他なりません。ですので、基本的に設立時に策定された企業理念は、よほどのケースでない限り変更されません。創業者が「このような会社であり続けてほしい」との願いを込めて作った企業理念は、経営者が変わろうと時代が移り変ろうと、不変のまま受け継がれるわけです。

一方で経営理念は、経営者が会社経営にあたって大事にしたい価値観や考え方を表します。大半のケースでは経営者によって価値観や考え方は異なるため、経営者が変わるタイミングで経営理念も変更される傾向が有ります。また、時代や消費者ニーズの移り変わりなどにより、現在の経営理念が時代錯誤となったタイミングでも、経営理念の再定義が行われます。したがって、企業理念と比べると変更の頻度は非常に高いと言えます。

違い④:理念を持つ利点

企業理念と経営理念では、理念を打ち立てる利点にも違いが有ります。

企業理念を持つ利点は、不変の価値観・考え方の明確化により、長期的な視点で日々の意思決定や活動を行えるようになる点です。たとえばトヨタは、「人や社会・地球環境との調和を図り、モノづくりを通して持続可能な社会の実現を目指す」のを企業理念としています。このような企業理念を掲げれば、短期的な利益やトレンドに惑わされずに、常に「環境や社会との調和」、「持続可能な社会の実現」を前提として意思決定や事業活動を行えます。長期的な視点を持てば、短期的な利益に飛びついて損失を被るようなリスクの軽減にも繋がるでしょう。

一方で経営理念の利点は、時代に適した方針を打ち出せる点に有ります。前述したとおり、経営理念は毎回経営者が時代の潮流や消費者のニーズなどを基に策定します。ですので、新規の経営理念を策定するたびに、最新のトレンドや消費者のニーズに対応した方針を打ち出せます。

違い⑤:注意したい欠点

企業理念と経営理念を策定・保有するにあたっては、それぞれ注意すべき欠点が有ります。

まず企業理念を持つ上で注意したい欠点は、時代に適さない理念となるリスクがある点です。技術の革新や経済のグローバル化などの影響により、顧客や労働者の価値観は一昔前と比べて大きく変容しています。企業理念は一度完成すると変わらないケースが多く、歴史のある企業だと現代の価値観と照らして不適切な企業理念となっている可能性が考えられます。時代に適さない企業理念だと、従業員や顧客からの共感や理解を得られず、日々の採用活動や取引にマイナスの影響が及ぶ恐れが有ります。

一方で経営理念を創る際には、当初の企業理念とかけ離れたものとなるリスクがある点に注意です。最初に作られた企業理念と経営理念が違うものになると、これまで培われた価値観や組織文化などが失われる可能性が有ります。その結果、勤勉な姿勢といった強みが失われたり、従来の企業理念に共感していた取引先や顧客が離れてしまいかねません。

まとめ

今回お伝えしたように、企業理念と経営理念には、「対象範囲」、「作成者」、「変更タイミング・頻度」、「利点」、「欠点」の5つに違いが有ります。企業理念と経営理念の違いをまとめると下記のとおりです。

企業理念経営理念
理念の対象範囲会社および社会全体経営陣
理念の作成者創業者と少数の従業員で作成基本的に経営者個人が作成
変更のタイミング・頻度創業時に作成、ほぼ変更されない経営者の交代や時代の移り変わりに伴い変更、頻度は高い
利点長期的な視点から意思決定や行動を行える時代に適した方針を打ち出せる
欠点時代に適さない理念となるリスクがある頻繁に変えると当初の理念とはかけ離れたものとなり得る

上記の表を見てわかる通り、企業理念と経営理念にはあらゆる点で違いが有ります。企業理念と経営理念を同一の概念として捉える会社も有ります。同一のものとして捉えるのは決して間違っていないものの、それぞれ別に作っておけば、短期的視点・長期的視点の双方を持てます。

この記事をお読みになった方は、ぜひ企業理念と経営理念を別のものと捉え、ビジネスを多角的な視点で行うようにしていただければと思います。